INTERVIEW
【 AstroX株式会社 】 宇宙開発で世界を切り拓く〜AstroX CEO 小田翔武氏が語る未来と挑戦〜
宇宙産業が注目を集める中、福島県南相馬市を拠点に革新的な挑戦を続けるAstroX株式会社。代表取締役CEOの小田翔武氏は、宇宙開発における日本の潜在力を引き出し、世界で戦える宇宙インフラを構築することを目指しています。
小型衛星の需要が急増する中、同社は「ロックーン」という独自の技術を武器に、宇宙輸送をより低コストかつ効率的に実現しようとしています。創業からわずか数年で多くの実績を積み上げ、挑戦を重ねる小田氏のビジョンと行動力には、無限の可能性を感じます。
本記事では、AstroXが目指す未来、宇宙産業の現状、そしてその背景にある小田氏のユニークなご経歴と哲学に迫ります。
Interviewee
AstroX株式会社
Founder / 代表取締役CEO 小田 翔武 さん
関西大学環境都市工学部卒。これまでIT企業などを複数社創業し経営→売却。2022年 幼少期から関わりたかった宇宙事業としてAstroX株式会社を設立。日本の宇宙開発におけるローンチヴィークル(衛星打上ロケット)不足の解決を目指し、小型ロケット開発を進める。
Interviewer
仙台市スタートアップ支援スーパーバイザー
鈴木 修
大学在学時にマーケティング及びEC領域で起業。その後、株式会社インテリジェンスの組織開発マネジャー、株式会社サイバーエージェントの社長室長、グリー株式会社のグローバルタレントディベロップメントダイレクターを経て、2014年に株式会社SHIFTの取締役に就任し国内及び海外グループ会社全体を統括。2019年には株式会社ミラティブでのCHRO(最高人事責任者)、2021年からはベンチャーキャピタルDIMENSION株式会社の取締役兼ゼネラルパートナーに就任。2013年TOMORROW COMPANY INC. / TMRRWを創業し、アドバイザーや社外取締役として、経営や組織人事の側面からスタートアップへのIPO支援や上場企業へのチェンジマネジメントを支援。国内外でのエンジェル投資実績も多数。2023年仙台市スタートアップ支援スーパーバイザーに就任。
―それではまず、事業概要を教えてください。
AstroX株式会社、代表取締役CEOの小田翔武です。私たちAstroXは、宇宙開発で”Japan as No.1″を取り戻すというビジョンを掲げ、ロケット開発を行っています。2022年5月の創業以来、福島県南相馬市に本社を置き、福島と千葉に研究開発拠点、東京に事業開発拠点を展開しています。
現在、社員は約20名。千葉工業大学教授で日本のハイブリッドロケットの第一人者である和田豊がCTOを務めています。ほかのメンバーもJAXAや三菱重工で大型ロケット開発の経験をもつ、国内トップクラスのエンジニアです。
―具体的な事業展開とその市場環境についてお聞かせいただけますでしょうか?
近年、宇宙産業は急成長を遂げており、特に衛星の小型化に伴い小型ロケットの需要が高まっています。日本政府も宇宙を重要産業と位置付け、国策として推進しています。
実は日本は、地理的条件と技術力の両面で、世界一と言える宇宙開発のポテンシャルを秘めているんです。そこで当社は、人工衛星の宇宙輸送事業に注力しています。

現状、国内の小型衛星打ち上げはほぼ100%アメリカのロケットに依存しており、打ち上げまでは大体2〜3年待ちという状況です。宇宙へのアクセス手段はロケットしかなく、必要不可欠な宇宙インフラであるということを踏まえて、私たちは、小型ロケットを、低コストで高頻度に打ち上げられる状態を目指しています。
―ロケットの打ち上げ方式に特徴があると伺っていますが、その点を教えていただけますでしょうか?
はい、私たちは「ロックーン」という打ち上げ方式を採用しています。これはロケットとバルーンを組み合わせた造語で、まずバルーンでロケットを成層圏まで運び、そこから空中発射する方式です。具体的には、飛行機が飛ぶ高度約10kmよりも上、高度約20kmの成層圏まで上げ、そこから高度500kmの衛星軌道に衛星を運びます。
現在の目標は、2025年度中に高度100kmの宇宙空間に到達し、帰還することのできるサブオービタルロケットの開発を成功させることです。このロックーン方式とハイブリッドロケットを組み合わせることで、打ち上げコストを大幅に削減できるんです。
―宇宙ロケットはコスト面が大きな論点になることが多いと思いますのでコストの削減はかなり重要ですね。もう少しその点を具体的に教えていただけますか?
従来の地上からの打ち上げでは、高度10kmまでの空気抵抗が大きい層を通過する際に大きなエネルギーを消費します。また、事故のリスクも高くなります。一方、ロックーン方式では、空気抵抗がほとんどない成層圏からの打ち上げとなるため、エネルギー効率が良く、その分のコストを抑えられます。
なお日本ではスペースポートと呼ばれるロケット発射場に適した場所が限られています。また海沿いは航空機や船舶の往来が多く、打ち上げ可能な時間帯の確保も課題です。しかしロックーン方式なら、気球を上げられる場所であればどこでも打ち上げが可能で、洋上での打ち上げもできるため、世界中どこでも対応できるという強みがあります。

―それは大きな強みですね。しかも創業からかなり早いペースでプロダクト開発が進捗していらっしゃいますよね?
私たちはこの約2年半でディープテック業界のなかでも、非常に速いペースで開発を進めてきました。たとえばエンジンやロケットの燃焼試験や、地上からの打ち上げ試験を実施しています。
それから、気球からの空中発射に必要な機体制御技術をミニスケールで実証し、世界初の成功を収めました。この技術を大型化して、実際の打ち上げに活用する予定です。
また、JAXAや南相馬市などの自治体とも連携し、宇宙産業集積地の形成にも貢献しています。
―事業を進める中で、現状特に高いハードルを感じる部分はどこですか?
まず技術面では、ロックーン方式での宇宙空間到達は世界でまだ誰も成功していません。多くの技術的課題があり、例えばマイナス50度という成層圏の環境下での機体制御などがハードルとなります。
もう一つの課題として、事業を進める上で、法律の整備が必要です。ロケットの打ち上げは基本的に宇宙活動法で規制されていますが、私たちのロックーン方式やハイブリッドロケットは今まだ法律の対象になっていないまま事業を進めるしかない状況です。そのため、私たちの方から、宇宙活動法への明記を働きかけているところです。
―技術面での競争優位性はどこにありますか。AstroX独自の技術領域があれば教えてください。
技術的な優位性は、大きく分けて二つあります。一つは、従来の液体や固体ロケットと異なるハイブリッドロケットを採用するにあたり、この技術の第一人者である和田がCTOを務めていること。もう一つは、他社が苦戦している姿勢制御技術を、当社は既にミニスケールで実証しており、大型化を進めているところです。
姿勢制御については、他社はプロペラ制御やスラスター制御を採用しているケースが多いのですが、私たちはジャイロ制御に取り組んでいます。姿勢制御装置には、衛星などの姿勢制御にも使われるフライホイールと呼ばれる円盤を高速回転させ、傾けて動力を発生させる技術を応用しています。ちなみにロケットが大きくなると、ロケット側でも誘導制御をするため、コンマミリ秒単位の精度は必要ないと考えられており、ロケットを打ち上げる方向を正確に制御することの方が重要になってきます。
―質問は変わりますが、場所、についてもお伺いしてみたいと思っていました。福島県南相馬市に本社を置かれる傍ら、実験もこの場所でされていらっしゃいます。最初に日本の地理的条件に触れられていましたが、南相馬の地理的なメリットとは何でしょうか?
はい。ロケットはエネルギー効率を高めるため、地球の自転を利用して東か南向きに打ち上げることが多いんです。ヨーロッパのように隣国がある場合は、ロケットの打ち上げがむずかしくなりますが、日本は東と南が海に面しており、打ち上げに非常に適したポテンシャルのある環境です。
特に国内では海に面した太平洋側が最適です。また振動や音が広範囲まで届くため、十分なエリアを確保できることや、周辺住民の理解も重要です。南相馬は東日本大震災の影響で人口が減少した地域ですが、その分広い土地があり、宇宙ビジネスにとても適しています。さらに、地元の漁業関係者などからも理解を得られています。

―ディープテックや宇宙ロケットと言うとどうしても技術力ばかりに目がいきますが、地理的優位性も大事ですね。次に、今後の資金計画やIPOの計画についてもお伺いさせてください。宇宙産業は大きな資金が継続的に必要になりますが、今後の計画はいかがでしょうか?
2028年度中に衛星軌道への到達を成功させ、2029年のIPOを一番の目標としています。ただし、宇宙産業では実験成功前に赤字であっても上場するケースがあるため、私たちも前倒しでの上場も検討しています。
資金調達については、ほかのロケット開発と比べればコンパクトな規模感で調達してきましたが、今後はシリーズA、B、Cと進めていきます。宇宙産業への投資は、数年前と比べると、単なる興味本位ではなくなってきており増加傾向にあります。ただ、分野的に未知数と判断されるのか、リード投資家の不在が課題です。当社も前回ラウンドでは、リード投資家が決まるまでに時間を要しましたが、その後フォロー投資家は比較的順調に集めることができました。
―まだ宇宙産業の可能性を解像度高く見ることのできる投資家が少なく、リード投資家の獲得はなかなか難しいですよね。ここからは小田さんご自身について、創業に至るまでの流れをお伺いできればと思います。
私は大学では土木工学を専攻して構造設計などを学び、橋の設計などをしていました。大学院に進学しましたが中退し、学部時代からずっと興味のあったIT分野で先に起業しました。実はITは高校時代から好きで、パソコンでアプリを作ったりもしていました。起業後は個人でシステム開発の仕事を受け始め、それが大きくなり、自然な流れで法人化しました。そのため私は特に最初から強い起業への意志があったわけではないんです。
―起業意志が強くなかった中でこれまで6社もの会社を作られてきていますが、思い返せば幼少期などに何らか起業に触れるような環境や接点はあったりはしたのでしょうか?
そんなことも全くなくて、父はサラリーマン、母は保育士で、周りにも起業している人はいなかったので、気づいたらこうなっていた感じです。ただ会社勤めはイメージできませんでした。ルーティンワークのような働き方が苦手で…アルバイトも続かず、自分は社会不適合者だなと思っていたんです。でもいざ自分で事業を始めると、長時間働いてもまったく苦にならなかったですね。
―起業することを当初から考え視野に入れていたのではなく、自分の興味やスキルを活かす結果として事業や起業になっていた、という自然な流れだったのですね。
そうですね。自然とITに興味をもち、例えばブロックチェーン技術が面白いと思うとそのシステム開発をしたりしました。しかしITの事業をいくつも手がける中で、ITの分野では、いわゆるGAFAがプラットフォームもインフラも全部持っていて、何を作ってもそこからリリースすることになって、日本は構造的に勝てないということを痛感したのです。
そんな中で、宇宙産業なら日本はポテンシャルがあることを知って。しかしロケットが足りていないという課題など、宇宙も産業としてスケールしていない日本では、このままだとITと同じく構造的に負けてしまう、と。しかし今ならまだそれをなんとかできる可能性がギリギリある。成長産業で、大きなチャレンジができるということで、AstroXを6社目の会社として起業することになりました。
今までの会社もそこそこうまくいき、売却したりもして資金もできた。だからお金を稼ぐというところにモチベーションがなくなってもいたんです。そこで、世界で勝負するという挑戦をするなら、と探していたところで、宇宙産業の分野を選んだという形です。
―ITから宇宙産業に参入した背景がとてもよくわかりました。他にも、宇宙にも魅力を感じた部分はありましたか?
未知の領域への興味関心ですね。私は元々読書が好きで、さまざまな分野の本を読むんです。多い年だと年間700冊ほど読みますが、本でインプットしたことをアウトプットしていく形で、起業も独学でしてきました。
宇宙については、宇宙工学出身でもないので、約1年の準備期間を設けました。その間にさまざまな専門家に会い、情報収集や意見交換を重ねました。そのなかでお会いしたのがハイブリッドロケットの第一人者の和田先生で、意気投合して一緒に事業を始めることになりました。
当時、私は金髪で、宇宙業界の人間でもない、「どこの馬の骨ともわからない若者」でしたが、和田先生は私の話を真剣に聞いて、事業を成功させるための方法を真剣に考えてくださいました。そしてAstroXを設立し、法人格がなくても応募できる補助金などを活用して、事業をスタートさせたんです。
―和田先生との出会いが大きなきっかけとなって今があるんですね。ちなみに小田さんのように、ビジネスの種や、こういうことがやりたい、という思いがある人が大学の外から大学教授とコンタクトをとっていくとしたら、どのような点が大事になりそうでしょうか?
大学には優れた技術や研究成果がありますが、それをビジネスに展開することに関しては専門ではありません。経営が出来るのであれば、先生方の技術を社会に還元するお手伝いをするという姿勢でいくとよいと思います。
一方、お金儲けのためだけに技術を利用しようとする姿勢は、敬遠されると思いますね。純粋に「技術を社会に役立てたい」という思いが重要です。私の場合、宇宙開発で日本をよくしたいという思いが伝わり、共感を得られたのだと思います。
―最後に、学生時代から複数の会社を作り、売却をするなど幅広い経験をされている小田さんから、起業家になることについてアドバイスをいただきたく思います。
起業を難しく考えず、単純にやりたいことをするのにメリットがあるかどうかで判断するとよいと思います。私は独学でしたが、周りに起業経験者がいれば。起業がより気軽なものとなり、ハードルが下がると思っています。
また、私は100%自己資本で会社を経営することと、資金調達をして会社を経営することの両方を経験しましたが、これはまったく別物でした。わかったことは、会社もいろいろな形があり、やりたいことを実現するための選択肢の1つとして、会社にした方がよいと思うのであれば会社を作るとよいと思います。
