INTERVIEW
【 株式会社ElevationSpace 】 東北大学在学中に構想し起業した“宇宙ビジネス“,大学は起業の宝箱
仙台市は、仙台のみならず東北全体のスタートアップ・エコシステムの発展に向け、様々な起業支援施策を生み出し、積極的に取り組んでいます。
グローバルチャレンジするスタートアップ、大学研究開発型スタートアップ、社会課題解決型スタートアップなど、この東北の地には様々な事業があり、そして起業家がいます。また、震災を経た経験があるからこその、地域に貢献しようとする強い想い持った起業家も増えています。
こうした様々なタイプの東北の起業家はどういう想いを持ち、どんなキッカケで、どのような挑戦や苦労を経験しながら成長し続けているのか。本シリーズでは、起業家にインタビューし、そのストーリーを解き明かしていきます。
今回は、高専時代に思いを馳せた宇宙という世界への夢を東北大学在学中に事業化し、日本はもとよりグローバルでもユニークなテクノロジーで挑戦し続けているスタートアップ、株式会社ElevationSpaceの代表取締役CEOである小林さんを取材しました。
Interviewee
株式会社ElevationSpace
代表取締役CEO 小林稜平 さん
秋田高専在学中の19歳の時に宇宙建築に出会い人生が変わる。その後、東北大学にて建築学と宇宙工学を専攻し、修士号(工学)を取得。大学在学中には人工衛星開発プロジェクトや次世代宇宙建築物の研究に従事し、宇宙建築において日本1位、世界2位を獲得。宇宙ベンチャーを含む複数社でのインターンを経て、株式会社ElevationSpaceを起業。アジア地域から世界を変える30歳未満のリーダー Forbes 30 UNDER 30 Asiaに選出。
Interviewer
仙台市スタートアップ支援スーパーバイザー
鈴木修
大学在学時にマーケティング及びEC領域で起業。その後、株式会社インテリジェンスの組織開発マネジャー、株式会社サイバーエージェントの社長室長、グリー株式会社のグローバルタレントディベロップメントダイレクターを経て、2014年に株式会社SHIFTの取締役に就任し国内及び海外グループ会社全体を統括。2019年には株式会社ミラティブでのCHRO(最高人事責任者)、2021年からはベンチャーキャピタルDIMENSION株式会社の取締役兼ゼネラルパートナーに就任。2013年TOMORROW COMPANY INC. / TMRRWを創業し、アドバイザーや社外取締役として、経営や組織人事の側面からスタートアップへのIPO支援や上場企業へのチェンジマネジメントを支援。国内外でのエンジェル投資実績も多数。2023年仙台市スタートアップ支援スーパーバイザーに就任。
―まずは、ElevationSpaceの事業概要について教えてください。
株式会社ElevationSpaceの小林稜平です。ElevationSpaceは、人工衛星の開発をする東北大学発スタートアップとして、2021年に創業しました。具体的には国際宇宙ステーション(ISS)で行われている宇宙での研究開発や技術実証などを、無人かつ小型の人工衛星で行えるようにすることに取り組んでいます。
僕たちが開発中の人工衛星ELS-Rは、宇宙空間で研究開発・製造を行い、かつ地球に物資を回収する機能を備えたプラットフォームです。ISSでは人間が大規模かつ複雑な実験を行うことができますが、宇宙空間で人間が活動するがゆえの、非常に厳しい安全上の制約も課されています。もし無人の人工衛星があれば、ISSで有人で行うよりもはるかに簡単にさまざまな実験を行うことができ、いわば宇宙空間を活用するハードルが下がります。
また、ISSは耐用年数の関係で2030年に運用終了となるため、その観点からも宇宙ステーションの代わりになるような新しいプラットフォームが宇宙開発において求められているといえます。
―ISS宇宙ステーションの次なるプラットフォーム構築、まさにスタートアップの壮大なチャレンジですね。
このプラットフォーム構築について、もう少し詳しく教えていただけますか?
はい。ISSの運用終了に伴い、宇宙で研究開発環境を提供する民間企業には大きく2つの選択肢があると言えます。1つはISSに代わる別の新しい宇宙ステーション、つまり有人のプラットフォームを作ること。もしくは、僕たちのように無人の小型衛星を作ることです。
まず有人のプラットフォームの開発はアメリカの企業が中心に行っています。一方、無人の小型人工衛星の分野に参入している企業は欧米に5、6社ありますが、国内では我々ElevationSpaceのみ。特に、宇宙から地球に戻ってくる機能を持つ人工衛星というのは非常に特殊で、日本ではまだJAXAによる数機があるのみで、民間で実施するのは僕たちが初です。世界でもほとんど例がなく、ElevationSpaceが独自性、優位性を持っている部分です。
―そもそも難易度が高いのは当然として、世界でも技術的に特殊なマーケットに日本代表としてチャレンジすること自体、素晴らしいです。
この無人で宇宙に行き地球に戻ってくることのできる小型人工衛星、具体的にどのような研究開発に利用できるのかを教えてください。
まず、地球での生活に応用していくための研究開発に使います。例えば創薬や材料製造の分野での利用です。人工衛星内の微小重力環境においては、例えば水と油のように、地上では混ざらないものを均一に混ぜることができます。その環境を利用して、宇宙でしか作れない素材を作って、地球に持ち帰って使う、いわば宇宙工場としての機能を持たせることができます。
もう一つは、宇宙開発自体に応用していくための研究開発や実証実験の場としての利用です。例えば人工衛星に使う部品や、月面開発に必要な新しい技術の実証、動作確認、さらに人類がこれから宇宙で生活をするための食料や家電等に関する研究です。このような場面で無人の小型人工衛星が活躍すると考えています。
―地球での活用のため、宇宙での活用のため、この両方のための研究開発や実証実験があるということですね。
現在、開発はどのようなフェーズにありますか?
現在は東北大学吉田・桒原研究室の持つ人工衛星開発・運用実績ノウハウを元に、大気圏再突入技術という新たな技術を組み合わせたELS-Rという人工衛星を開発しており、2025年の打ち上げに向けて準備を進めています。
―2025年の打ち上げ、もうすぐですね、とてもワクワクします。
まずはここまでの道のりですが、小林さんが当初想定していた計画と現実の合致や相違はいかがでしょうか?
人材、資金、研究開発の3つの側面で考えますと、まず人材や資金の獲得面では、ここまでは順調に進んでいると思います。事業領域の独自性や技術的なおもしろさがあるため、東北という地方にいながらも優秀な人材が集まっていますし、資金も投資と補助金を合わせて4~5億円を、かなり早いスピードで集めることができました。
一方で、研究開発の部分は、誰も作ったことがないものを作り上げるという性質ゆえの難しさがあります。最初はR100という100kgサイズの人工衛星を作っていましたが、想定以上の顧客からの引き合いがあったことなどを受け、200kgサイズに変更しました。サイズ変更により、作業期間や技術面にも変更があり、様々な情勢を受けて、半導体など材料の納期が延びる、連携したいと思っていた企業が破産するなどという問題にも直面しました。全く新しい分野の事業に取り組むことの難しさをこの1、2年で強く感じています。
今後の計画について、会社を立ち上げた時からイメージしていたことは、グローバルで戦って結果を出すためのチーム作りです。現状では国内メンバーを中心に、国内を拠点としており、株主も日本人が中心ですが、今後はグローバルに展開することを視野に入れています。
―宇宙ビジネスへの壮大なチャレンジをしているElevationSpaceの小林さんですが、そもそもこの事業に取り組むことになった背景や最初のきっかけは何だったのでしょう?
最初のきっかけは、秋田工業高等専門学校で建築を学んでいた19歳のとき、たまたま宇宙建築というものに出会ったことです。先に建築を学んでいたのは、東日本大震災の影響からでした。災害で暮らしや建物などこれまで築いてきたものが一気に崩れるのを見て、災害に強いまちづくりをしたい、と思い高専に入ったのです。
そのため、決して元から宇宙少年だったというわけではありませんが、高専5年生の秋、東北大学への編入学試験が終わって少し落ち着いた頃、インターネットで「建築」「宇宙」と偶然検索したんです。そこで初めて宇宙で建築物を作るという分野が存在することを知りました。これから必ず人間が宇宙に出て活動をする世界が生まれる。その時、そのための構造物が確実に必要になる、というポテンシャルを強く感じたんです。
この宇宙建築との出会いで僕の人生は本当に大きく変わりました。秋田の高専の普通の学生だった自分が、突然東京にある宇宙建築の団体にコンタクトをとるというアクションを起こしました。そしてスカイプで打ち合わせをしたり、夜行バスで東京に通ったりする日々が始まりました。
―高専の時に自分で探してアプローチしてアクションしていく動き、一見、普通に思えたり自分もやってみようと思ったりはしますが、実際にはなかなかできることではなく、それは起業家の重要な基本資質の一つですね。その後、東北大学に編入されてから起業するまでにはどんなアクションがあったんですか?
はい。高専から東北大学に編入してからも、宇宙建築に携わりたいという思いが消えることはありませんでした。アンテナを張って動きながら、宇宙建築専門のコンペに応募して国内では1位、アメリカの国際コンペでは2位を受賞しました。そして学内で、現共同創業者の桒原聡文先生と出会います。吉田・桒原研究室の人工衛星開発技術を使ってどう事業展開していくかアイディアを練り、2021年の修士1年が終わるタイミングでElevationSpaceを立ち上げることになりました。
―あらためてですが、高専でも大学でもとにかくアクションし続けていますね。インターネットでの偶然の検索から見つけた関心事、その関心事を探究していく小林さんのピュアなアクションが起業に結びついたんですね。起業には、関心の探究への熱量と行動、これが重要なんだとあらためて実感です。
ありがとうございます。高専を卒業し、大学に入る年に、今年は新しいことをする年にしよう。人ともたくさん会おう。と決めていたんです。そのため大学では、自分で団体を作ったり、起業家が登壇するようなイベントに参加して交流したり、と積極的に行動していました。
例えば仙台にあるコワーキングスペース「エンスペース」ではオープン時からインターンをさせてもらい、たくさんの経営者や起業家と出会うことができました。今も続いているエンスペースのイベントやコンテンツの幾つかは、僕が企画したものです。
―一つお伺いしてみたいのは、東北大学に入るまでは周りに起業家がいたわけでもなく、起業という言葉にすら接する機会はなかったのでは?と思いますが、、そういった中で起業という選択肢をとった一番の理由は何だったとお考えですか。
そうですね。さまざまな人が宇宙で生活できる世界を作る。これをやりたい、これしかやりたくない、という想いが強かったのが一番だと思います。では就職してそれが実現できる会社があるかというと全くありませんので、研究者になるか、自分で会社を立ち上げるか、ということだけが選択肢でした。大学院でスモールビジネスと研究を並行してやり、どちらが自分に向いているか考えようとも思いましたが、桒原先生との出会いなどもあって意気投合し、結果的にはスモールビジネスではなくスタートアップを選択しました。
―まずは起業うんぬんではなく、自分がどうしてもやりたいことがあったから、これが起業の源なのですね。その次に、それを実現する手段として起業があったと。
その起業という選択肢を選ばれた修士1年の時、やりたいことはあったとして、それを事業としてやっていけるなという戦略なり計画なりも描けたものなのでしょうか?
戦略や計画を最初から描けていたというよりも、事業アイディアと方向性を考えて、ニーズがあるかを仮説検証して、というプロセスを日々楽しみながら繰り返しているうちに、事業がどんどんブラッシュアップされていき、結果的に今の形にたどり着いた、という感覚です。
そのアイディアに加えて、ISSが退役するというタイミング、それから実現可能な技術。この3つが揃った時に、ある程度現実的な計画になった気がします。それが創業の半年前くらい。人によってはまだまだ検討の余地がある、と考えたかもしれませんが、僕の場合は楽観的に見ていた部分もありました。
―未踏で不確実性あるチャレンジだからこそ、ここでもまずはアクションをし続けていきながら実現をカタチにしていく小林さんの資質が活きているんですね。
起業に至った環境についてもお伺いしたいのですが、東北大学で起業するにあたり、大学のどんな面が起業に役立ちましたか?
まず大学というのは、おもしろい研究の種が眠っている場所で、起業という観点で見たら宝箱のような環境です。それを常に利用でき、専門家の先生と気軽に話もできる。僕自身、起業関係なくいろんな先生に会いに行き、話を聞いたりしていました。
また東北大学では東北大学スタートアップガレージという事業があり、スタートアップをしたい人の事業アイディアのブラッシュアップやメンタリングを無料してくれます。こちらも、僕は定期的に活用しました。東北のVCであるスパークルの方にも気軽に話を聞いてもらえる環境でした。ビジコン出場のサポートなどもしてもらえるため、これらの場所はElevationSpaceの立ち上げにあたりフル活用しましたね。
他にも東北大学起業部VEXというクラブもあり、ここでも投資家の紹介などをしてもらいました。
このように、東北大学は起業する前の学生にとっては本当に適した環境であり、結果的に起業に興味をもって動く学生が非常に増えています。今後はそういった学生のために、起業した後の支援、例えば人材の紹介や、事業をスケールさせていくためのサポートなどがより求められてくると思います。
―グローバルチャレンジをするElevationSpaceですが、その中でいわゆるハードシングスもあったと思います。小林さんは経営者としてどのように立ち向かい乗り越えていますか?
まず一つ言えることは、メンタルは強い方だと思っています。鈍感で楽観的なのかもしれません。その理由として、まずマーケットを信じ切っている、という面があります。ですから、たとえ足元の状況が悪かったり、思い通りにいっていなかったとしても、この事業は絶対にうまくいくという確信があるので、不安はありません。
それに、自分自身がやりたいことはこれしかないので、他に選択肢がない。ただ目の前のことをやり続けるだけなんです。
―私(鈴木)はElevationSpaceの社外取締役をしていますので、小林さんと対話する機会は多いですが、小林さんはどんな時も感情が表立ってブレることなく良い意味で淡々と安定して“ピュアにまっすぐに”物事に向き合ったりコミュニケーションをとったりしています。その“ピュアなまっすぐさ”の根底にはマーケットを信じ切っている、ということがあるのですね。社員の方は、この人の夢を叶えてあげようと人に思わせる力が小林さんにはある、と仰っていましたが、小林さんの“ピュアなまっすぐさ”がそう思わせているのでしょう。
僕自身は、めちゃくちゃ頭がいいとか、ビジネス経験が豊富だとかいうタイプではないんです。ただ唯一、この事業を人生かけてやるんだ、これをすれば絶対成功する、と思っているだけ。事業のポテンシャルにさまざまな方が共感してくれて、人も資金も集まってくれるのだと思います。
また、僕は何かのスペシャリストというわけではないので、仲間がいないことには事業が進められないんです。自分が力をもっていないからこそ、能力のある人を仲間に入れ、純粋に頼って、相談して、進めていけるのだと思います。
―まさに有名なアフリカの諺にある“If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.”、ElevationSpaceの壮大な宇宙ビジネスの実現に向けて小林さんをリーダーとしたチームづくりが最重要要素の一つですね。
最後に、これから起業したいと考えている人に向けたメッセージや、
ElevationSpaceからPRしたいことなどをお願いします。
日本でこれから起業しようと考えたとき、大学発ベンチャーもそうですが、スタートアップを取り巻く環境は良くなっていると思います。ですので、学生のうちに起業する選択肢は有りですね。グローバルでナンバーワンをとれるような技術や領域は大学にたくさん眠っていると思うので、それを気軽に活用できる立場にいるというのは大きなアドバンテージです。まずはその環境をフルに使っていただきたいです。
我々ElevationSpaceとしては、これまで宇宙なんて無関係だといいう企業であっても、宇宙に関わる時代がくると考えています。宇宙に新しく取り組んでいきたい、宇宙に興味があるという企業様と、ぜひお話をしたいですね。特に東北など地元の企業で、宇宙開発に関わりたい企業と連携ができるとうれしいなと思っています。